リモートワークも定着してきて、職場でもオンラインで1-on-1を行ったり、コーチングをしている方も多いのではないでしょうか。
オンラインは予定を合わせやすい一方で、相手の表情がよく分からないなどやりづらさを感じている方もいるでしょう。
対面とオンラインではコーチングの効果や影響はどう変わるのでしょうか。
これまでの研究で対面コミュニケーションに比べて、非言語的な情報などが限られることで、相手の感情などの理解や解釈に影響し、やりとりの豊かさや質が下がることが分かっています。
一方で、地理的な制約や時間的な制約、金銭的な制約なく、より多くの相手に支援できるという利点があります。また、やりとりを容易に保存してあとから見返したり、振り返ることもできます。
職場における対面コミュニケーションとオンラインのコーチングの効果、影響を調べた、香港のHang Seng Management Collegeの研究を紹介します。
Hui, Ray. (2015). Coaching in computer-mediated communication at workplace, 2015 IEEE International Conference on Teaching, Assessment, and Learning for Engineering (TALE), pp. 215-219, 2015.
オンラインでのコーチングは、e-コーチングとも呼ばれますが、電子メールやチャットツール、インスタントメッセージ、Web会議、ソーシャルメディアなどを用いるもの。この論文ではインスタントメッセージを扱っています。
香港で働く正社員114名で実験を行い、約1ヶ月の間に2回のアンケートを行なっています。
最初のアンケートは、デモグラフィック情報と直属上司のコーチングスタイルとその手段(対面かインスタントメッセージ)を質問するもの。参加者の平均年齢は29.1歳、フルタイム勤務の経験は7.07年、43.9%が女性、56.1%が男性でした。
コーチングスタイルは、ガイダンス・コーチングとファシリテーション・コーチングの2つ。ガイダンスコーチングは、コーチがロールモデルとして、問題解決方法や改善方法に関するフィードバックを行うもの。一方でファシリテーション・コーチングは、相手が課題を探究し、解決策を自己発見することを支援するものです。
次のアンケートはその1ヶ月後に、参加者自身の、適応的パフォーマンス、創造性、感情的消耗を質問します。適応的パフォーマンスとは、例えば「私はタスクのやり方をかえることに躊躇しない」というようなものです。
アンケートの分析の結果、コーチング・スタイルと手段の関係について、ガイダンス・コーチのタイプはインスタントメッセージの利用が多く、ファシリテーション・コーチは対面とインスタント・メッセージの両方の利用が多かったとのこと。
また、対面コーチングは、創造性を高めて感情的疲労を軽減し、オンライン(インスタント・メッセージ)のコーチングは、適応的パフォーマンスと感情的疲労を増やすが、創造性とは関係しないことが分かりました。
この研究から言えることは、創造性を高めたり、感情的疲労を高めたいなら対面コーチングがよいこと、インスタントメッセージは適応的パフォーマンスを上げるが、同時にストレスを与えることもあるため、注意が必要ということです。
あなたはガイダンス・コーチ、ファシリテーション・コーチのどちらのタイプでしょうか?
インスタントメッセージでなくWeb会議の場合はどうなのかという点も気になりますが、目的に応じてインスタントメッセージやチャットツールだけでなく、対面コーチングも効果的に取り入れるのがよいでしょう。
以下の研究は、電話によるコーチングとインターネットを活用したオンラインコーチングの実験を行っていますが、オンラインだけでなく、対面コーチングを組み合わせた方が良いとしていきます。
Geissler, H., Hasenbein, M., Kanatouri, S., & Wegener, R. (2014). E-coaching: Conceptual and empirical findings of a virtual coaching programme. International Journal of Evidence Based Coaching and Mentoring, 12(2), 165–187. https://search.informit.org/doi/10.3316/informit.706758416429391